明治24年(1891)10月に起きた大地震(濃尾地震)の死没者追善のための石碑。翌年に造立。愛知県熱田にある尾張紡績会社の壮麗堅固な工場が倒壊し、圧死した工人達の亡魂をとぶらう。本碑の前でおりおりに追善供養することが企図されたらしい。生き残った人々によって碑造立が企画。同地の浄土宗雲心寺境内に立つ。
資料名 震災弔魂碑
年 代 明治25年(1892)
所 在 雲心寺|愛知県名古屋市熱田区尾頭町
北緯35°08’06″ 東経136°54’02″
文化財指定
資料種別 石碑
碑文類型 同時代的事件(災害)
ID 0001_2306
翻刻
〇オモテ面
「永享福祉」
震災弔魂碑
明治二十四年十月二十八日、尾濃両国地大震。尾
張紡績会社亦罹災、工場崩壊、男女圧死者三十九
人。会社在愛知郡熱田。実係明治二十一年所創建、
壮宏堅牢、輪焉奐焉。其工凡九百五十餘人。昼夜輪
番交代就業。地震時、天既明、死者皆属昼工云。噫均
是二也、一圧死而一免厄。雖曰天命、其幸不幸、豈不
悲哉。曩請各宗高僧、読経以祈冥福。今又捐資建碑
于雲心寺、歳時供養、求銘于余。余嘉生者之所以慰
死者也。不辞而作文係以銘。曰、
震災圧死 雖曰天命 惨刻滅裂 奈此人命
遠離顛倒 究竟定命 立石弔魂 頂礼帰命
大本山清浄華院大教主檀林霊巌寺住職斉誉大周撰
従二位侯爵徳川義礼公篆額 浪華丹羽正臣書
星野守一鐫
〇ウラ面
明治二十五年九月建之
発起人 小林次一
有志総代 副田兼次郎
今沢米太郎
周旋人 若林順明
現代語訳
〔1. 地震と被害者〕
「永遠に(死者は)冥福をうける」
震災弔魂碑
明治24年10月28日、尾張・美濃両国の地に大地震があった。尾張紡績会社もまた被災し、工場が崩壊して39人の男女が圧死した。会社は愛知県愛知郡熱田にある。実に明治21年の創建で、広く大きく堅固で壮麗であった。そこの工人はおよそ950人余り。当番制で昼夜交代しながら職務に従事していた。地震の時、既に明け方だったので、死者はみな昼番だったという。ああ、(地震は)工人達を二つに分けたのだ。一つは圧死するもの、一つは災いを免れたものに。これが天命とはいっても、幸運と不運とを思う時、(生者は死者に対して)どうして悲しまないでいられようか。
〔2. 碑建立の経緯〕
すでに各宗の高僧を招き、読経して死者の冥福を祈った。今さらに(小林次一ら有志者が)資財を投じて碑を雲心寺に建立し(ここで)年年折々に供養を行おうとして、銘文作成を私に求めてきた。このように彼ら生者が死者を慰めようとすることを私は褒め称えたい。だから辞退せずに文章を作成した。銘(詩)を以下につなぐ。
〔3. 銘〕
震災での圧死は、たとえ天命だといっても、
無残にも破れさけて形を失ってしまった遺骸をみると、(亡くなってしまった、はかない)人の命をどうしたらよいのだろうか(どうしようもできない)。
亡魂よ、いっさいの迷いを離れ、限りない命を得られんことを(阿弥陀仏とならんことを)。
石を立て亡魂を弔う。仏菩薩に礼拝し帰依せられよ(亡魂に追善供養せられよ)。
(後略)
訓読文・註釈
〔1. 地震と被害者〕
「永く福祉を享く」
震災弔魂碑
明治二十四年十月二十八日、尾濃両国の地大いに震う。尾張紡績会社も亦罹災し、工場崩壊して、男女の圧死する者三十九人。会社、愛知郡熱田に在り。実に明治二十一年の創建する所に係り、壮宏にして堅牢、輪焉たり奐焉たり。其の工、凡そ九百五十餘人。昼夜輪番交代して業に就く。地震の時、天既に明くれば、死者皆昼工に属すと云う。噫均てば是二也。一は圧死して、一は厄を免かる。天命と曰うと雖ども、其の幸と不幸と、豈に悲しまざらんや。
〔2. 碑建立の経緯〕
曩に各宗の高僧を請じ、読経し以て冥福を祈る。今又た捐資し碑を雲心寺に建て歳時に供養せんとし、銘を余に求む。余、生者の死者を慰むる所以を嘉みする也。辞せずして文を作して係くるに銘を以ってす。曰く、
〔3. 銘〕
震災の圧死 天命と曰うと雖ども
惨刻滅裂 此の人命を奈せん
顛倒を遠離し 究竟たる定命
石を立て魂を弔う 頂礼帰命せよ
大本山清浄華院大教主檀林霊巌寺住職斉誉大周撰す
従二位侯爵徳川義礼公篆額 浪華丹羽正臣書す
星野守一鐫る
*永享福祉 福祉は、幸福。ここでは震災死没者の冥福。享は、受ける。生者による追善供養によって、永遠に死者が冥福を享受するという意。
*尾張紡績会社 明治20年(1887)6月、奥田正香によって愛知県熱田町大字尾頭に創業。工場は同21年創建。
*輪焉奐焉 建物が広大で壮麗であること。
*雲心寺 名古屋市熱田区尾頭町にある浄土宗の寺院。山号、遣迎山。元文4年(1739)開創。
*歳時供養 歳時は、一年のおりおり。碑の前で年年おりおりに追善供養しようと。
*銘 四言詩。韻字、命・命・命・命(去声二四敬)。
*遠離顛倒 迷いの世界から離れて。『般若心経』の「遠離一切顛倒夢想」を踏まえるか。
*究竟定命 究竟は、この上ない。定命は、定まった寿命。限りない命を得る、つまり阿弥陀仏になるとの意味とみられる。
*清浄華院 浄土宗大本山の一つ。京都市上京区北之辺町に所在。貞観年間(859~877)創建という。のち法然が中興、浄土宗に改めた。
*霊巌寺 東京都江東区白河にある浄土宗の寺。山号は道本山。近世初期開創。関東十八檀林(江戸時代に制定された浄土宗僧侶育成のための学問所一八ヵ寺の称)の一つ。
*斉誉大周 神谷大周(1841~1920)。明治~大正時代の僧。浄土宗。愛知県三河出身。
*徳川義礼 1863~1908。明治時代の華族。もと尾張藩主徳川慶勝の養子となり、明治13年家督をつぐ。
画像






その他
補足
工場の震災前後の写真が、絹川太一1938に掲載(316頁)。
参考文献
- 佐藤勇造『地震家屋』(共益商社、1892年)第五章「尾張紡績会社ノ崩壊」。
- 絹川太一『本邦綿糸紡績史 第四巻』(社団法人日本綿業倶楽部、1938年序)第八章「尾張紡績会社」。
所在地
震災弔魂碑
所在:
雲心寺|愛知県名古屋市熱田区尾頭町
アクセス:
名古屋市営地下鉄名城線 西高蔵駅 下車 徒歩数分
雲心寺に入り参道脇に所在
編集履歴
2023年6月20日 公開
