関東大震災殃死者供養本尊 釈迦如来像 台座銘

関東大震災殃死者供養本尊 釈迦如来像
概  要

関東大震災(大正12=1923年)死者供養のため造られた石造釈迦しゃか如来にょらい坐像の台座銘で、造仏の由来を記す。本像のあるかいぞうは東京品川にあり、品川海岸に漂着した夥しい数の被災死者は、ここに埋葬され毎年法要が行われてきた。同寺は時宗寺院で、近世以来、刑死者など無縁仏を供養してきたところ。昭和7年(1932)当地が東京市に合併され品川区となったのを機に、区内諸宗派の寺院が合同で本像を造って当寺境内に安置し、本像を伴って横死者の追善供養を行うこととなった。

資料名 関東大震災おう者供養本尊 釈迦しゃか如来にょらい像 台座銘
年 代 昭和7年(1932)
所 在 海蔵寺|東京都品川区南品川四丁目
 北緯35°36’49″ 東経139°44’27”
文化財指定     
資料種別 石碑(仏像台座銘文)
碑文類型 同時代的事件(災害)
備 考 資料名は内容および台座篆額による。
ID 0031_2402

目次

翻刻

「大正癸亥(蓮華座下台座篆額)震火(十二年)大災死各霊供養」
大正十二癸亥年九月、関東之
地大震、起劫火之災。帝都、其禍
最甚。珍万宝、悉帰有、殞命者、
超十万矣。死屍著品川海岸
者、数十町。場合葬瘞之于南
品川蔵寺境域、以毎歳修
法会。昭和七壬申年十月、郡併
合、此地亦為東京市。此機、品川区
各宗寺院胥謀奉安迦如来像、
又献納向之資、将永為各霊之
福菩提。尊像成、乃誌来由云爾。

現代語訳

「大正12(蓮華座下台座篆額)年地震・火事の大災害で亡くなった諸霊の供養(のための仏像)」
大正12年(1923)9月1日、関東の地は大いに揺れ、全世界を焼き尽くさんばかりに猛火の災いが次々に発生した。被害のほどは、(関東のうち)帝都東京が最も大きかった。ありとあらゆる宝物が跡形もなくなり、命を落とすものは十万を超えた。そのうち品川海岸に漂着した死骸は、(並べると)総計で10町(約1.1キロメートル)にもなった。(東京府荏原えばら郡品川町の)役場は、合葬してこれらを南品川海蔵寺の境内に埋め、そして死者の生前に思いをめぐらし、とぶらいの法要を毎年修してきた。昭和7年(1932)10月、東京市と荏原郡が合併し、この地(=品川町)もまた東京市(品川区)となった。この機会に品川区の各宗派寺院は相談し、「釈迦如来像を安置したてまつり、さらに回向えこうの資財を(海蔵寺に)献納もし、永遠に各亡霊の冥福や菩提に資することにしよう」ということになった。尊像ができあがり、その由来を記す。以上である。

訓読文・註釈

「大正癸亥(蓮華座下台座篆額)震火大災おう各霊供養」
大正十二癸亥みずのとのい年九月さく、関東の地、大いにふるへ、ごうわざわしょうす。帝都、其の最もはなはだし。しっちんまんぽうことごとゆうに帰し、命をおとす者、十万をゆ。なか死屍ししの品川海岸にひょうちゃくする者、じっちょうさんじゅす。役場、合葬して之を南品川海蔵寺きょういきうずめ、以て毎歳ついちょう法会ほうえを修す。昭和七みずのえさる年十月、市郡併合し、此の地もまた東京市とる。此の機に、品川区各宗寺院、はかりてしゃ如来にょらい像を奉安し、又回向えこうも献納し、まさに永く各霊の追福ついふくだいさんとす。尊像り、乃ちらいを誌すとしか云ふ。

*殃死 一般的な言葉ではないが、熟語として読ませたいらしい。不慮の災難で亡くなるという意。

*朔 月の第1日。

*踵起 次々に起こる。

*七珍万宝 あらゆる種類の宝物。仏語。

*烏有 何もないこと。

*中 語義やや難。現代語訳は試案。

*漂著 漂着。

*算数十町 算数は、数えること。町は、長さの単位で約109メートル。漂着した死骸は、完体でなかったものもあったと思われ、精確な人数把握は困難だっただろう。とすると十町とは、遺骸を並べた長さと考えられる。

*役場 当時海蔵寺が属していた東京府荏原郡品川町の役場。

*海蔵寺 現東京都品川区に所在し深広山無涯院と号する時宗寺院。本尊は阿弥陀如来。碑文が言及する関東大震災死亡漂着者のほか、獄死者、品川宿芸妓、京浜鉄道轢死者など、多くの無縁の霊が埋葬されている。

*追弔 死者の生前をしのんでとむらうこと。

*市郡併合 東京市と東京府荏原郡が合併したこと。本碑がある同郡品川町は、郡内他町とともに東京市品川区になった。

*釈迦如来像 区内の仏教諸宗派合同による奉安なので、どの宗派にも平均的に重要視される釈迦如来が選ばれたと考えられる。本碑のある海蔵寺は時宗の寺院で、阿弥陀如来を最重要尊格とするが、阿弥陀でないのはそのため。

*回向之資 回向は、自分の行なった善根功徳をめぐらし、自分や他のもののさとりに振り向けること。「回向之資」とは要するに回向料のことで、海蔵寺僧の回向仏事に対する布施を指すと思われる。

*追福 死者の冥福をいのること。追善。

画像

全景 (撮影日:’24/02/20。以下同じ)
台座銘
蓮華座下台座篆額
釈迦如来像
釈迦如来像 側面
釈迦如来像 側面
無縁諸精霊供養塚
海蔵寺 入口

その他

補足

  • 特になし。

参考文献

  • 特になし。

所在地

関東大震災殃死者供養本尊 釈迦如来像 台座銘 地図

所在
海蔵寺|東京都品川区南品川四丁目

アクセス
京急 新馬場駅 下車 徒歩
海蔵寺境内に入り本堂前にあり

編集履歴

2024年2月28日 公開

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